なぜ新卒で世界銀行に入ったのか,という話

ブログを始めたものの自己紹介を一度もしていなかったので,新卒で世銀で働くまでの経緯などを今回はお話したいと思います。

今どこで何をやっているの?

現在,アメリカのワシントンDCにある世界銀行の本部のPoverty and Equity Global Practice(貧困解析部)に所属し,Short-term Consultantとして雇用され,研究のアシスタントやデータ解析をしています。2018年3月に修士課程を修了してから,世銀と契約,東京でリモートワークを始め,2018年8月から渡米し,現在(2019年5月)に至っています。

普段は一日中オフィスでRとPython (たまにSTATA)をゴリゴリ書いて,家計調査や国勢調査のデータ加工や機械学習などしています。

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世界銀行本部 @ワシントンD.C.

 

学生時代は何の勉強してたの?何の修士号持ってるの?

慶應義塾大学の学部時代 (商学部) には,3年時から計量経済学/開発経済学のゼミに所属し,数学やら統計学やらミクロ経済学などを学び,インドの家計調査のデータを使った貧困の研究をやってました。

学部3年から4年にかけて周りの友人達が就活に勤しんでいる中,私は大量に履修した授業のレポートや統計の勉強に明け暮れていたため,いつの間にか就活の時期が終わっておりました(計画性ゼロ)。「ゼミの先生好きだし,勉強楽しいし修士いくか!」と割と軽い気持ちで大学院に進学することを決めました。

大学院進学と同時に,『5年間で修士号2つ博士号1つを取得する』という鬼畜でお得なプログラム (博士課程教育リーディングプログラム) に参加しました。最初の3年間で修士2つを取り修了し,そのタイミングでプログラムをやめてしまったので,結局博士号は取らず終いでしたが。(この辺の話は今度記事にします)

修士課程の最初の2年では,商学研究科で計量経済学を専攻し,インドの家計調査を用いた需要関数の推定の研究を行いました。次の1年では医学研究科で公衆衛生学を専攻し,感染症と気象要因の時系列を行いました。どちらの専攻でも,経済モデル/統計モデルの推定を用いた研究を行ったため,統計解析の知識やRの操作などがかなり身についたと思います。

 

院時代のインターンで機械学習マンに

ちょうど学部を卒業して修士に入る2014年あたりから,ビッグデータや機械学習などのフレーズが話題になり始め,院進学してからは興味本位でいくつか機械学習の授業を履修しました。ただ,大学院の研究においては計量経済学や統計学は使うものの,機械学習を使うことはありませんでした。

「せっかく学んだ機械学習の知識を使って何かやりてぇ!!!!」という意欲が増しに増した結果,修士課程の3年間に,5つの中長期のインターンを経験することになりました。結果的にこの経験が今の自分のスキルとキャリアに大きく影響することになりました。

1つめ:アメリカのサンフランシスコにあるテック系の小さなNGOで,リサーチやデザインの手伝い (1ヶ月強)

2つめ:シンガポールのIBMで,調達の最適化など (1ヶ月弱)

3つめ:IBMのコンサル部門で,チャットボットの作成 (1ヶ月弱)

4つめ:IBM東京基礎研究所で,高齢者特有の疾患の発見などの研究 (11ヶ月) → 自然言語処理と機械学習

5つめ:某商社のデータ解析部門で,ある財の直近の価格の予測 (1ヶ月弱) → LSTMとか

修士3年目には週3-4のペースでIBMの研究所で働き,Health Infomaticsの分野のトップカンファレンスに論文を出したり,国際特許を申請したりと面白い経験をしました。機械学習を使った医学研究や論文の書き方を手取り足取り教えて頂き,1年の間に脳みそが2倍になるほど色々なことを学びました。

 

人生の帰路:就職 or 博士課程進学

2つめの修士号の修了が近づく3年目の終盤,就職するか博士課程進学するかの人生の岐路がやってきました。先程挙げたリーディングプログラムに参加していたので,残りの2年間で商学研究科の博士号を取得する予定でした。しかし,如何せん文系の博士号は3年で取得するのも難しく,2年じゃとても学位を貰えるはずがないと思い,結局修士2つを取得した段階で就職することに決めました。

この決断をしたのが,修了年度の12月くらいです。次の4月に就職するにはどう考えても遅いです。ただ,色んな会社でインターンをして解析スキルや研究能力も多少は身についた自信があったので,どうにかなるだろうと楽観視していました。

 

国際機関で働くことに対する憧れ

開発途上国での貧困について勉強・研究している人の多くが,国連や世界銀行などの国際機関で働くことを一度は夢見ると思います。私も例に漏れず,ゼミに入って貧困について勉強し始めた頃から,「国際機関ってなんかカッコいいなぁ。働いてみたいなぁ」とボンヤリ考えておりました。大学院に進学するときも,志望理由書には「将来は国際機関で働きたい」などと書いた覚えがあります。

ただ,実際に国際機関で働ける人間がどれだけ限られているかを知っていたので,「言うは易く行うは難しだよなぁ」と感じており,正直10回生まれ変わっても働けないんじゃないかと内心は思っておりました。

ですので,就職をしようと決めた時点では,国連や世界銀行なんかは全く選択肢にもなく,「民間企業で楽しく機械学習できたらいいなぁ」くらいに思っていました。

 

世銀に就職するキッカケ

4月からどうしようかと考えていた2018年2月,世銀でのインターンを募集している日本人の女性の投稿がFacebookで回ってきました。「計量経済学/開発経済学をやっていて,機械学習に明るく,家計データの加工・解析ができる修士/博士の日本人の学生」を探しており,良い人がいれば直接一本釣りするという内容でした。

「機械学習やってる人は沢山いるけど,他の条件も同時に満たしてる日本人なんて自分以外にいないんじゃないか」と何か運命的なものを感じました。普段から使う予定もないのに英語の履歴書を用意していたので,勢いでその履歴書と修士論文2本をその女性にお送りしました。

書類を送ってからはトントン拍子で,特に堅苦しい面接もなく話が進んでいきました。「実は修士課程が終わったら就職しようと思っていて...」という旨を伝えたところ,「じゃあインターンではなくて,コンサルタントとして雇ってあげよう」という提案を頂き,Short-term consultant (STC)として雇用されることになりました。この女性が今の私のボスです。

"チャンスの神様は前髪しかない",とよく言うものですが,本当にそうだなぁと実感しています。

 

なぜ雇って貰えたのか

いざ働き始めてみると,私が所属した部署(Poverty and Equity Global Practice)は研究部門ということもあり,経済学やインフラ(工学)博士号取得者がほとんどで,最も職位が低いShort-term consultantですら博士号を取ってから入っている方ばかりでした。

修士号しか持っていない自分がなぜ雇って貰えたのかを考えてみると,「世銀にドンピシャである計量経済学と公衆衛生学の修士号」を持っており,かつ「機械学習を用いた研究で論文を書いたことがある」という専門性を買って貰えたからだと思っています。

また,いつどこで使うかもわからない英語の履歴書を作成して更新し続けていたのも,上手く話が進んだ要因だと思っています。すぐに書類を提出をできなければ,誰にかに先を越されていたかもしれません。

 

終わりに

ブログを作成してからRやPythonの記事しか書いていませんでしたが,やっと世銀に入るまでの経緯を書くことができました。

特殊なルートで世銀に就職したので,参考になる方がいるのかわかりませんが... どんなところにチャンスが転がっているかわからないので,日頃からアンテナを張って,いつでも対応できるよう準備しておくことが重要かもしれません。

次回からは,実際のプロジェクトや世銀での雇用形態など,世銀で働いているからこそ分かることについても記事にしていきたいと思います。